甘孜(ガンゼ)から色達(セルタ)へ
▼放浪206日目 2014/7/1(火)
「セッタセッタセッタ!」
朝、東チベットの街「甘孜(ガンゼ)」に大声で叫ぶタクシードライバーの声が響く。
男に値段を聞くと100元(1600円)で色達(セルタ)まで行くらしい。
まあそんなものだろうと承諾した。
車にはあと4人程の席が空いていて、この人数がそろわないと出発しないようだ。
気長に待つことにする。
気が付くと2時間も待たされる。さすがの私も我慢の限界が来た。
苛立ちを抑えながら荷物を持ち、ドライバーにもう別の場所へ移動するから、待たせ過ぎだから、もう行くからぁ!と身振り手振りで伝える。
ドライバーは待て待て、もう来る、もう来るから、待って待って!と説得しだした。
じゃー10時になっても出発しなかったらオレもう帰るからぁ!と伝え、渋々待つことにした。
10時になったがやはり来ない。
はい!もう怒った!出て行く!とザックを持ち上げると、道の向こうから4人のチベット僧がゾロゾロとやってきた。
そうか来たか。ならば乗ろう。
人数が揃いようやく車は出発した。私以外は皆チベット僧だった。
色達(セルタ)到着
この街から更に乗り合いバンで、今回の目的地である「五明佛学院(ラルンガルゴンパ)」へ向かう。
手前に広がる草原と遠くに見える緩やかな丘を走り、商店の並ぶ小さな町に入ると車は左折し、グングンと坂を上って行った。
ラルンガルゴンパの世界
かつて繁栄を極めた古(いにしえ)の民が、争いを逃れて海を渡りこの辺境の山奥に逃げ込み王国を築いた。
という妄想が膨らむ。
景色が凄すぎる。興奮冷めやらない。
ここがラルンガルゴンパか。
なんとか興奮を抑える。
ラルンガルゴンパで泊まった宿
宿に入りゆっくりと落ち着ける。
宿泊した宿は、町の真ん中に位置する招待所。
ドミトリーで一泊50元。
Wifiなし。シャワー無し。鍵の閉まらない共同トイレ有(まあまあ清潔)。恐らく高台にある大きな宿の方が値段も安く良いと思われる。
同室には台湾出身のドンくんが居た。
彼は英語が堪能で会話の中で「君の英語はいいねぇ!」と生まれてはじめて褒められた。
自分の英語はダメだダメだ、と自己否定を繰り返してきていたので、その発言にはとても驚き、嬉しかった。
満ちた心で、ぐっすりと眠りについた。
ラルンガルゴンパで出会った中国人の青年
▼放浪207日目 2014/7/2(水)
朝の景色も見たいと思うと、自然と6時に目が覚めた。
標高が高いだけあり、少しの坂を上がるだけで息が切れてしまう。
ふと後ろから声を掛けて来る青年が居た。
彼の名前はチョウ君14歳。中国人で少し英語が出来るようだ。
これから学校へ行くのだと肩で息をしながら話してくれた。
私は図々しくも一緒に行っていいかい?と聞くと、笑って頷いてくれた。
チョウ君は中国の田舎から、このラルンガルゴンパに仏教の勉強?をしに半年くらい滞在するらしい。
とてもしっかりとした青年だ。
チョウ君の案内で小さな掘っ立て小屋のような建物に案内された。
小屋の中には子供からお年寄りまで、幅広い年齢層が集まっていた。不思議と女性の姿は見えなかった。
8時になると先生と思しき人物が入り、同時に助手のような僧が朝食替わりのスニッカーズを配る。
音調のある念仏のようなものを全員で唱えると、授業が始まった。
教壇に座っている先生が中国語でチベットの教えを説明しているのだろうか、内容はよく分からない。
授業中は日本の学校と同じく、寝ている人やキョロキョロしている人、窓をぼんやり見ている人など、日本の授業のそれと変わりはない。
30分も経つと、私はこの空間に飽きてしまい貰ったスニッカーズをこそこそと食べる。
1時間程で授業が終わり、皆わらわらと外に出だした。
ラルンガルゴンパで偶然の再会
チョウ君と街の中心にある広場へ行くと、見覚えのある女性2人が居た。
2か月前にタイにあるチェンマイの日本人宿、スローハウスで会った、あすこちゃんと、さきちゃんだ。
当時宿には8人くらいの沢山の日本人が居て、あまり会話を交わす事は無く別れたが間違いない、あの二人だ!
こんな辺境で、しかも以前に会った旅人と再会できるとは。旅は面白い。
いけてる中国人のジャン君も加わり、皆でチョウ君の家へお邪魔する事になった。
マニ車を回すチョウ君。
チベット人は中国人を嫌っているような事を聞くが、こうしてチベット仏教を学ぼうとしている中国人が居る事も忘れてはならない。
もっとじっくり撮りたいが、勉強の邪魔をしては悪いと思い、なかなかカメラを向ける事が出来なかった。
これから皆で鳥葬を見に行こうという話になり宿に一旦戻ると、今度は1ヶ月前に中国で会ったヒロキ君と、7か月前にベトナムで会ったギシさんと偶然バッタリと出会った。
「二人ともこんなところで何してんの!」
「旅ですよ!」
とても嬉しい偶然の再会であった。
旅は一期一会が多い分、こういう再会は本当にとても楽しく嬉しい。
こんな中国の辺境で知り合いの日本人に同時に4人も会うという事もまた、面白可笑しい。
ラルンガルゴンパの鳥葬場へ
という事でみんなで鳥葬へ行く事になった。
※「鳥葬」とは遺体を鳥類に食べさせて魂を天に送り届ける、チベットの伝統的な埋葬方法。「天葬」や「空葬 (Sky burial)」とも呼ばれる。
街の北にある丘を越えると、ハゲワシの群れと出くわした。
体が大きく迫力がある。
鳥葬の場所も近いようだ。
見たい気持ちと、見たくない気持ちが混ざり、胸がざわざわとしている。
複雑な心境のまま丘を登ると、鳥葬を行う場所が見えてきた。
いったい何がはじまるのだろうか。
つづく