KENJI HIROTA PHOTOGRAPHY

房総半島カメラマン・ヒロタケンジ

冬のサンティアゴ巡礼[31日目]旅の終わりともらい泣き

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約7分


世界放浪2年間の旅で最も心を熱くさせてくれた、スペイン巡礼31日間の写真旅行記最終回です。
今後巡礼する人や興味がある人へ向けて、そしてもう一度脳内で旅をしたい自分の為に情報を記録しています。

サンティアゴ巡礼ってなんなの?という人は、以下の記事をはじめにご覧くださいませ。
スペイン巡礼31日間!絶景・友情・感動の780キロを超えたサンティアゴ巡礼の費用と絶対に行くべき5つの理由
冬のスペイン巡礼-準備編・旅に必要な持ち物や情報

・本記事は、2015年1月~2月に旅した情報を元に作成しています

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サンティアゴ巡礼31日目、最終日の朝

▼放浪427日目 2015/2/7(日)
780キロ31日間を歩く巡礼の旅。今日は最終日。
宿泊している、オ・ペドロウソ(o pedrouzo)から聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラまで最後の20キロを歩く。

この巡礼ではたくさんの旅人と出会い別れた。
気の合う旅人とは、話をしながら自然な流れで歩きそのまま宿で寝食を共にする。今日の出発もそんないつものメンバーと歩き始める。

巡礼路の要所に貝殻マークのオブジェや看板が目に入ってくる。
これがスペイン巡礼の目印で、一緒に描かれている矢印へ進むとゴールのサンティアゴに到着する。
このオブジェを過去何度か見失っただろうか。
これを頼りに歩いた780キロもあと20キロを残すのみとなった。


ゴール地点の聖地サンティアゴまであと15キロ、あと10キロ、5キロと確実に距離は短くなっているが、到着は遥か先のように思えてくる。

ようやく田園風景が終わると、サンティアゴの市街地に入った。
もう後少しでゴールだ、休めるぞ・・という誘惑が緊張の糸を緩めて体が重くなる。
もう休みたい!いや頑張る!の上がり下がりを繰り返す。

聖地サンティアゴ到着

16時過ぎ、ついにサンティアゴ・デ・コンポステーラのゴール地点、大聖堂に到着した。した!


大聖堂が工事中なのは残念の極みであったが、大きな広場には巡礼を終えた旅人が記念撮影などをしていた。他にも一般のツアー観光客の姿が多く見られた。
日本人観光客のおばちゃんが興味津々に話しかけてきて、「まあ!がんばったわね〜!これでご飯でも食べて!」とお小遣いをくれた。

顔を見合わせて、みんなで大笑いをした。

780キロを歩き終えて到着してはみたものの、「感動の涙」や「凄い達成感」など感じる事はなかった。
ただ抜け殻のように「もう今日から歩かなくて良いのだ」という脱力感だけが全身を包んでいた。
予想はしていたが、終わりというのは意外とあっけないものだ。

 

痛みが走る足を引きづりながら、大聖堂近くにある巡礼の事務所へ移動した。
巡礼路を終えた最後の証明として、スタンプを押して貰える。

晴れて780キロを歩いた証明書をもらう事が出来た。
名実ともにカミーノ・デ・サンティアゴの旅が終了した。

夜の打ち上げでは、道中で出会った多くの人達と共に酒を飲みかわした。
あの山の雪はきつかったな!景色はどこが好きだった?とか、あいつは最後に告白したらしいぞ!などの話がはずむ。
沢山のお酒と豪華な料理は、最後を飾るに素晴らしい夜であった。

しかしそんな宴は巡礼中は何度もあったし、いままでの日常とさほど変わらない夜とも言えた。
最終日は意外とあっけなく終わるものなのだなと、飲めないお酒をかっくらっいながら皆で騒いだ。

宴の後、飲み足りないパーティーピーポー達は別の酒場へ行き、私は早々に宿へ戻り眠りについた。

巡礼31日目データ
歩行距離・・・・・・20.3キロ(残り0キロ、累積780.5キロ)
使ったお金・・・・・19.3ユーロ(宿14ユーロ、食4+?ユーロ、カフェ1.3ユーロ)

サンティアゴ巡礼を終えた翌日

▼放浪428日目 2015/2/8(月)
昨晩の酒を残しながら、朝目覚めた。
この1ヶ月毎朝、苦悶の表情で重い体を突き動かして出発の支度をしていたが、今日はない。
大荷物を担ぎ、もうダメだと喘ぎながら長距離を歩く事も、今日はない。

全てから解き放たれて、まるで羽根が生えたような気分でサンティアゴの街を闊歩する。

お昼過ぎ、大聖堂で行われているミサ(礼拝)に参加した。
司祭さまの祈りの声が、広く高い天井の教会に響き渡り清廉な気持ちになる。

私は目を瞑ると、頭の中でこれまでの巡礼の景色を振り返っていた。
吹雪で目の開けられなかった日。雨にビショビショで震えた日。1日で45キロ歩いて倒れるように宿に着いたあの日。
不思議と肉体を酷使した辛い出来事ばかりが思い返される。

1ヶ月を終えた今、スペイン巡礼の旅は私に何を残したのだろうか。

チョルとの別れ

礼拝の終わった午後1時。巡礼の中盤を長く共にした韓国人のチョルが旅立つ時間が来た。

Photo by cats

彼は巡礼中の私をいつも気にかけてくれた。
重量25キロの大荷物を抱えて歩く私を気遣い、ペースに合わせてくれたり。
プルコギを作ってくれたり、カフェをご馳走してくれたり。

しかし、ある日私はずっと後をついてくるチョルに疲れてしまった。
ストレスが積み重なり、どうしても一人の時間が欲しくなった私は彼に言った。

「これは私の巡礼だ。だからあなたはあなたの道を進んで欲しい。」

一人で歩きたい旨を伝えると、その日以降彼は私から離れて先へ歩き始めた。
悪い事言ってしまった申し訳なさを抱えながらも、最終日の再会で何も気にしもしていない笑顔をくれた。
「私の中で、【カミーノ=ケンジ】だよ」と言ってくれたのは嬉しかった。

友達のようでもあり、父親のような存在だったチョル。
ありがとう。さらば、元気で。

別れ際のもらい泣き

▼放浪429日目 2015/2/9(火)
サンティアゴに着いて2日目。
この街でゆっくり体を休めた私は、ポルトガルへ向けて旅立つ。

共に歩いた旅人たちも、それぞれ別の道を行くようだ。
ある人は母国へ戻り。ある人はここからさらに西の海岸沿い「フィニステラ岬」まで歩く。

中盤からずっと一緒に歩いた、韓国人で舞台女優のヒジはこの後スペインを観光するようだ。
握手をしてハグをしてみんなと別れを告げた。

何人目かの別れの時、突然ヒジが涙を流しはじめた。

私はその様子を見ていると、突然喉からこみ上げるものがあり、嗚咽と共に涙が出てきた。
ずっと一緒に厳しい道を歩いた仲間達と別れる寂しさからか。
あの一ヶ月がもう戻らない事を実感したからか。ふっと緊張の糸が切れてしまったかのようだ。

これまでの旅で涙なぞ流した事はなかったのに。不覚だ。
はっきりとした涙の理由はよくわからないが、この旅は私の心を揺さぶる大きな何かを与えてくれたのかもしれない。

泣き顔を撮られた

サンティアゴ巡礼を振り返って

この記事を書いているのが2017年6月。あの巡礼の日々から2年以上の月日が流れた。

ただ歩くだけの毎日は決して楽しいものでなく、辛く感じる事の方が多かった。
朝日や夕日に癒されながらも、精神と肉体を削るような毎日。
一刻も早く歩くのをやめたかったし休みたいと思いながら歩いていた。
ゴールした瞬間、もうこんな辛い事は二度とやるものか、と思ったものだ。

しかし数年経った今、あの日々を振り返ると、人生であんなに全力で生きた毎日があっただろうかと思う。
命を削るような辛かったあの日々が、時間を経てキラキラと眩しく輝きはじめたのである。
もはやもう一度、違う季節や違う道を歩きたいとさえ思いはじめている。

世界各国の旅人達との交流。スペインの美しい田園風景。美味しい物沢山のスペイン料理。清潔で安い宿。
いろいろな魅力があるサンティアゴ巡礼。
「最高に辛くて、最高に楽しかった」一ヶ月でした!

この記事をご覧の皆さん。
是非この「カミーノ・デ・サンティアゴ」を歩いて、謎の感動を体験してはいかがだろうか!?

 
以上、長々と書き連ねた31日間のスペイン巡礼の旅行記を終わります!
ご拝読ありがとうございました!

次回、ポルトガルの旅へつづく!

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