KENJI HIROTA PHOTOGRAPHY

房総半島カメラマン・ヒロタケンジ

ラルンガルゴンパの鳥葬〜遺体の肉を削ぎ鳥が食べ天に届ける儀式〜

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約7分

世界放浪2年間の旅で、最も心が震えた景色「ラルンガルゴンパ」旅行記の2日目です。
前回、チベットの辺境で偶然にも出会った知り合いの日本人達と共に鳥葬(※)へ行くことになり、その壮絶な景色を見た旅の記録です。

※「鳥葬」とは遺体を鳥類に食べさせて魂を天に送り届ける、チベットの伝統的な埋葬方法。
「天葬」や「空葬 (Sky burial)」とも呼ばれる。詳細は→鳥葬-Wikipedia

・本記事は、2014年7月に旅した情報を元に作成しています

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街から歩いて鳥葬場へ

▼放浪207日目 2014/7/2(水)
標高3000メートルにある「ラルンガルゴンパ」に到着した私は、
偶然出会った旅の友人達と共に鳥葬が行われてるという場所へ向かうことにした。

町の中心から北東へ、急斜面に足を取られながら青々と起伏のある丘を登り下りる。

息を切らしていくつかの丘を越えると、天空にハゲワシが飛び交っているのが見えた。どうやら目的の場所も近いようだ。

丘の上の見晴らしの良い場所に出た。
斜面には大きなハゲワシが羽を休め、ぎょろりとこちらを睨みつけている。

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なだらかに続く丘の斜面の終わりに、木製の塀に囲まれ土がむき出しの場所があった。
そこを中心にして多くの見物客が囲んでいる。
どうやらここで鳥葬が行われるようだ。
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こんな大勢の人の中で、まるでエンターテインメントショーが始まるかのような雰囲気に違和感を感じてしまう。鳥葬は厳(おごそ)かに静かに行われるものと想像していたからだ。自分もギャラリーの一人にすぎないのであるが。

 

ラルンガルゴンパの鳥葬

しばらくしていると、奥で人の動きがあった。

2人や3人がかりで布やビニールにくるまれた、ずっしりとした大きな袋を運び出している。
どうやらこの中に人間の遺体が入っているようだ。

(※注意 ここからの鳥葬の描写は少し生々しく不快に思う人が居るかもしれません。
抵抗のある人は「ここから」「ここまで」読み飛ばして下さい。)

 

 

▼▼▼▼▼▼▼ここから▼▼▼▼▼▼▼


運び込まれた袋は全部で5体程。
次々と袋が開けられ、一糸まとわぬ人間の遺体が取り出されていく。
年老いた女性の遺体や、男性の遺体、子供のような小さい遺体も見えた。
どれも頭を丸めていてチベット僧だろうか。
私はあまり近寄る事が出来ず、遠くからその様子を見ていた。

全ての袋から遺体を出し終えると、厚手の前掛けとゴム手袋をした男が現れ、持っていた出刃包丁で遺体の足や腕の肉を削ぐように切りはじめた。
鳥が食べやすいように、細かく切り分けているのだ。
淡々と遺体に向かって作業をする男の姿に感情はなく、手慣れたてつきで切った肉を地面に放っている。


あれは人の身体なのにまるで牛や豚、鳥の肉を捌いているように見える。

 

風と共に、生臭く少し甘い匂いが漂ってきた。これまで嗅いだことの無い独特の匂いだ。
これが小説や映画で見聞きした遺体の匂いなのだろう。
見てはいけない光景だと言っているようで、心のザワザワが収まらない。

作業が終わったのか、出刃包丁を持った男が離れたのを合図に、一斉にハゲワシたちが動き出した。
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大きな羽音と甲高い鳴き声を発しながら、数えきれないハゲワシが一か所に向かって集まっていく。
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鳥たちの羽ばたきで風が起こり、土埃が舞い上がるとまた悪臭が強くなった。
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鳥たちが大群となり、密集しうごめいている。けたたましく鳴きながら争いあっている。

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ふと横に頭が真っ赤に染まったハゲワシがこちらを睨んでいた。
鋭いくちばしを使ってこちらに襲いかかってくるのではと恐怖を感じる。

1-IMG_2774

向こうでは2匹のハゲワシが白いゴムのようなものを引っ張り合っている。
あれは人間の皮膚に違い無い。

 

耳を塞ぎたくなるような鳴き声と匂い。密集してうごめくハゲワシ。

何千ものハゲワシに囲まれてあっという間に骨になっていく人の体。30分見ていたのか2時間見ていたのか、判然としない時間が経っていた。


しばらくして出刃包丁を持った男は作業を終えると離れた場所に座り、小さな太鼓と笛を吹き始めた。
遠くでは祈りの唄が聞こえている。

鳥達が幾分おとなしくなり始めた頃、出刃包丁を持った男が骨を小屋にある機械で粉砕し、それを鳥たちに撒いていた。
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日本では遺体を仏様と呼ぶ。
その神聖とも言える遺体を無造作に扱うこの葬儀は、私にとって衝撃的であった。

 

▲▲▲▲▲▲▲ここまで▲▲▲▲▲▲▲

ハゲワシもまばらになり観光客も居なくなり、鳥葬が終わった。

後片付けをしている男達をぼんやりとみながら思う。
自然界の中で人というのは、なんというちっぽけな存在だろうか。
そして自然界の大きさや、地球の大きさを実感したような気がした。

非力で小さなこの命を、全力で燃えつくさねばならない。
不思議と腹の底から静かなエネルギーが湧き出てくるのを感じ、この残された人生を後悔無く生きていきたいと思ったのだ。
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ラルンガルゴンパ周辺を歩く

▼放浪208日目 2014/7/3(木)
ほとんど放心状態のまま、鳥葬場を離れた。

偶然出会った友人達に別れを告げ、一人で街を歩くことにした。
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やはりラルンガルゴンパは凄い異世界である。どこを歩いても絵になる。
今までの旅で、最も心が震えて興奮する場所だ。
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少し高台へ登った景色も素晴らしい。
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周りの山を周るとすぐに息が切れる。
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山にくっきりとした雲の形の影を落としている。標高が高い景色ならではだ。美しい。
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南側へ降りてみる。
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町から少し離れた道を歩く。
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歩いていると中国人カップルが話しかけてきて2ショット写真を要求される。
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2度目の鳥葬場へ

一度みたら十分、二度も見る必要は無いと昨日思っていた鳥葬場にまた来てしまった。
ズームレンズで鳥たちを撮りたかったからだ。
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丘の上に日本人のリサさんとフランス人のマルコさんを発見した。
この夫婦とは理塘(リタン)の町からの移動の時に初めて会って、2度目の鳥葬に来たのも二人がここに居ると知っていたからでもある。
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鳥葬を見終わり、3人で話しをしながら宿に戻る。
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ときどき道を間違えて急な崖を登りながら
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街を見下ろす絶景ポイントで写真を撮ってもらう。
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二人とも世界を周遊していて、この後もまだ中国を巡るようだ。
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楽しい2人であった。またどこかで会えたら。

ブログはこちら。
リサさん→ http://risacosfantasticlife.blogspot.jp/ (リンク切れ )
マルコさん → http://voyageravecmoi.com/ (フランス語)

ラルンガルゴンパを離れ成都へ

▼放浪209日目 2014/7/4(金)
朝6時、いよいよラルンガルゴンパを離れるため町を下る。
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この場所を知ったのはかれこれ8か月前。
私の旅の始まりで、香港のドミトリーで会ったベテランの旅人2人に教えて貰ったのがきっかけだ。
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当初は東チベットなんか途方も無い場所で、雲を掴むようなイメージだった。
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8か月目にして実際にたどり着くことが出来た。
山奥の標高の高い、物凄い場所にある事もわかった。
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暖かでシャイなチベット僧たちと触れ合う事も出来た。
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チベット僧の人達は結婚をしないらしい。異性に触れてはならないとか。
宗教に捧げる人生とは、一体どんなものなのだろうか。
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ラルンガルゴンパはこれまでの旅で一番感動出来たと言えるだろう。
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少し後ろ髪を引かれながら、私は朝7時に成都行きの乗合タクシー(300元)に乗り込み、濃密なラルンガルゴンパの旅を終えた。

東チベット編 完

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コメント一覧

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  1. 突然のメールにて、大変失礼致します。編集プロダクションに所属しております稲葉と申します。
    ただいま弊社では、「秘境国」「存在が謎の国」「不思議な風習、祭り」などのテーマに沿って、世界中の国々を写真とともに紹介する書籍を制作中です。
    同書の中で、「チベットの鳥葬」について取り上げるのですが、お写真をご提供頂けませんでしょうかと思いご連絡差し上げました。ブログに掲載されている、ハゲワシのお写真を中心にお願いさせて頂けると大変ありがたいです。
    突然のご連絡、大変失礼致しました。
    ご検討のほどどぞよろしくお願い申し上げます。

    稲葉拝

    • 稲葉さん。ご連絡頂きましてありがとうございます。
      詳しい内容については以下のメールアドレスにご連絡頂きまして、回答させて頂きたいと思います。
      よろしくお願い致します。まずは以下の内容のご連絡をお願い致します。
      kenzuiii@hotmail.com

      —必要情報—
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