KENJI HIROTA PHOTOGRAPHY

房総半島カメラマン・ヒロタケンジ

トルクメニスタンの秘境・炎に包まれた地獄の門と途方に暮れる遠い旅

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約6分


2年・31カ国の旅の中で、印象深かった中央アジアにある独裁国家「トルクメニスタン」。
そこにある秘境「地獄の門」を訪れた時の旅行記です。
ウズベキスタンの国境から南の砂漠地帯にあるダルヴァザへ行き、その後歩いて地獄の門までの行き方などを載せています。

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ダショグズからダルヴァザへ

▼放浪290目 2014/9/23(火)
ウズベキスタンの宿に大切な一眼レフカメラを忘れてしまい(※前回の記事)、
茫然自失の中、北の街ダショグズから地獄の門のあるダルヴァザへ移動した。タクシー運賃35ドル。

17時にダショグズを出発すると、到着した頃にはすっかり空は真っ暗になっていた。
時計を見ると20時を回っている。

暗闇の大通りに、ポツンポツンと3件の茶屋(チャイハナ)が並んでいた。
先人の教えによると、この中の一軒は盗難が多い事で知られていた。しかしそれはどの茶屋だろうか。

適当に一番近くの茶屋を覗くと、数人のおっちゃんやおばちゃんらが居て、見た目は善人面だ。
私は人を見る目がある。
よしこの人らなら大丈夫だ!と、気合を入れて荷物を置かせて貰った。
最低限の荷物と食料をセカンドバックに入れ、貴重品の入ったメインバックは、パックセーフ(バックパックを金属製のネットで覆うアイテム)を使い、一応の盗難対策をした。
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ここから歩いて地獄の門に向かおうと、宿のおばちゃんに尋ねた。
もう聞き飽きた質問だったのだろう、ハイハイと外へ出ると東の地平線を指差した。

その先には遠く赤ぼんやりと半円に明るくなっている場所が見えた。あそこを目指せば「地獄の門」に着くらしい。
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地獄の門・ガスクレーターへ

チャイハナを出ると、用意していた懐中電灯を使って暗闇を歩きはじめた。
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ザクザクと砂利の混じった足音だけが響き、ただひたすらに暗闇を歩いた。
はじめ少し肌寒く上着を着ていたが、汗をかいてきたのでこれを脱ぐ。

道中(いや道などないが)は平坦でなく、トゲのある草に刺されたり、小高い砂丘などが突如として眼前に現れたり、不意に足を取られる事が多かった。
30分程歩くと線路が現れた。貨物用だろうか。
人工物が見えて、何故かほっとした自分が居た。
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遠い北の方角に懐中電灯のような明かりがチラチラと見える。
同じ旅行者だろうか、話しかけようかとも思ったが、近寄ってくる気配が無い。
そのうち闇の中へ消えてしまった。

もしかしたら車の明かりだったか、いやそもそも本当にそんな明かりは存在していたのだろうか。
暗闇の砂漠の中にポツンと取り残され、急に孤独を感じてしまった。

 

ふと顔を上げると、前方の明かりが強さを増している事に気づいた。
目的地は近いようだ。
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チャイハナ屋から1時間半程、いくつかの砂丘を超えて、ようやく赤々と光るガスクレーターが見えてきた。
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ダルヴァザの地獄の門

「ゴォォォォ」という音が段々と近寄ってくる。
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ついに「地獄の門(Door to hell)」に着いた。

ぽっかりと開いた大きな穴の中は、至る所から赤々とした炎が噴き出している。
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恐る恐る中を覗きこむと、むわっとした熱気が顔に押し寄せてきた。
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不意に中へ滑り落ちて熱さで苦しみ焼け死ぬ自分を想像しまい、背筋が寒くなる。
「地獄」とは、よく形容したものだ。
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この地獄の門は、元々天然ガスの洞窟が存在していて、その調査中に落盤事故が発生。
大きなクレーターが出来てしまった。
ガスの放出を防ぐ対策として火を点けて、以降40年以上燃え続けているらしい。
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私はどうせ大したことは無いだろうと、期待していなかったのだが、
想像以上の大きさと迫力に大いに驚いた。
一眼レフで、高画質で撮りたかった・・・。(写真は全てRICOH GRⅢ。これも勿論素晴らしいカメラ。)
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地獄の門にたくさんの日本人

同じくらい驚いたのが、ここに10人以上の日本人が居た事だ。
何故こんなマニアックな所に日本人が沢山いるのか!?と混乱したが、
秘境を得意としたツアー会社さんのようで納得した。

むしろ、皆さん方が西の暗闇から歩いてきた私の事を驚いていた様子だった。
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そんな日本人の人達と、地獄の炎を眺めながら楽しい時間を過ごす事が出来た。
こんな所で一人で夜を過ごしていたら、寂しくて発狂していたかもしれない。
皆さん、その節はありがとうございました。
そろそろ眠くなり軟らかい砂の上で寝ようと準備をすると、
この辺は毒蛇やサソリが出るかもしれないと、ツアー添乗員さんから警告を受けた。

もし何か刺されたら声をあげてねと、優しいお言葉を頂き、おっかなびっくりしながら寝る事にした。
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地獄の門で野宿した朝

▼放浪291目 2014/9/24(水)
夜明け前に目覚め、再び地獄を覗きに行く。
座って、ただ眺める。

まるでキャンプファイヤーの炎のように、不思議とずっと見ていても飽きない。
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ふと近くに岩山があり、そこへ登った上からの眺めも素晴らしい。
陽が出てきてこの大地にぽっかりと口をあけた地獄の門の異様さがわかる。
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日本人の皆さまから、餞別にと頂いたお菓子を朝ご飯替わりに食べる。
しょうゆ味が懐かしさと共に、体中に染み渡るようだった。
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朝陽が出てきた。一眼レフを忘れた代わりに動画でも撮ろうかとビデオを回してみる。
動画も臨場感があって面白い。

 

 

日本人の皆さんとここでお別れをした。どこかの秘境でまたお会いしましょう。
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さあ、また1人になった。あの砂漠を超えて帰ろう。

帰り道は西の方向なので、自分の影が伸びる方向を追って行けば車道に出るはずだった。
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地獄の門からの帰り道と遠い旅

沢山日本人と会ったからかだろうか、荒野の砂漠を歩いていると胸の奥が締まるような寂しさが湧き出てきた。
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帰りたければとっとと帰ればいいが、
今のタイミングでしか出来ないこの旅をやり遂げたいという気持ちもある。
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まだまだ旅は長い。未だにヨーロッパさえも着いていない。

ああ日本のみんなは元気だろうか。
あの日々を思い出し、なんだか胸が締まるようである。

 

 

故郷に思いを馳せていると、いつの間にか元のチャイハネ屋に着いた。
時間は午前10時。
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店に居たおばちゃんたちとお菓子などつまみながら、お喋りをしてバスを待つ。
とても気の良い人達で、ようやくちゃんとしたトルクメニスタン人と交流出来た。
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地獄の門。
ここ数か月、旅のドキドキやきらめきを失いながらも、とてもインパクトのある景色を見る事が出来た。
夜中に歩く2時間弱の砂漠の道のり、着いた先で野宿してからの朝陽と共に現れる周辺の景色。

全て含めて「旅」というのを味わえた気がする。
前の宿にカメラさえ忘れていなければ、もっと楽しめたであろう。きっと。
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11時半になり首都アシガバード行きのバスが来た。
街で一泊したあとは、次の国イランへと向かう。
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つづく

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